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「デジタルは作る写真、フィルムは残す写真」写真家・ENA.インタビュー

「娘の写真をいい感じに撮りたい」—— その気持ちからカメラを手にしたENA.さん。GRⅢと出会い、写真を撮る楽しさにのめり込んで3年。今、彼女が写真を撮る理由はどう変わったのか?デジタルとフィルム、作品と記録、自身と写真との関係を、Photoli代表・横尾 涼が聞いた。

GRⅢに出会ってからは、「娘の写真を残せている」という実感がありました

ー写真を始めてどれくらいですか?

2022年からだから、3年くらいです。娘の写真をいい感じに撮りたいって思ったのがきっかけで。

実は娘が産まれる前に、「子どもの写真を撮ろう」と思ってミラーレス一眼を買ったんですけど、実際に子どもが産まれたらもう生きているだけで精一杯になっちゃって、カメラ触ってる暇なんてなくて。それに重たくて、娘を連れながらでは持ち歩けなかったですね。

娘が2歳半くらいになったころに、GRⅢを買いました。これなら持ち歩けるし、気軽に撮れる。それから写真頑張ってみようと思って、今のInstagramのアカウントを作ったんです。

ーGRⅢを購入したきっかけってなんだったんですか?

ファッション系のアカウントで見かけて。写真自体は、よくある……鏡に向かって自撮りしているようなものだったんですけど。「こんなに小さくて真っ黒なかっこいいカメラあるんだ」「子どもと一緒でも持ち歩けそう」って思って。

ー子どもを撮ってる写真を見てGRを買ったわけじゃないんですね。

そうなんです。作例を見て決めたわけじゃなくて、カメラ自体に惹かれました。

ーなるほど。GRⅢを買って、そこから写真にのめり込んでいくきっかけってなにかあったんですか?

きっかけ……うーん、楽しかった。単純にそれだけかな。買ってすぐ、もう毎日撮るようになって。「娘の写真を残せている」という実感がありました。

ー「9枚の写真、1つの視点」でENA.さんを表す9枚をもらいましたが、その頃に撮った写真はここには入ってるんですか?

入ってないですね。9枚はほぼ最近撮ったものです。撮ってる写真が、今とその頃では全然違うので……

ーどういう違いがあるんですか?

今は、「こういうのが撮りたい」をイメージしてから撮ることが増えた。写真を始めた当時はありのまま、ただ娘の日常を撮っていただけなので、別物って感じで。比べられないです。

今もありのままの日常も撮ってはいるけど、それはほとんどフィルムで撮っていて。私の中でデジタルとフィルムは使い方とか撮れた写真への感覚が大きく違うんですけど。今撮ってるものも当時撮っていたものもお気に入りで、比べるものではないですね。

娘が大きくなってきた今、親としては「娘の日常をそこまで人目に晒したくない」という思いがあるんです。なので、SNSには娘の「オン」を載せています。今は娘と二人で写真を作っているという感覚ですね。娘も写るのが好きと言ってくれているので。あまりにもプライベートって感じがするものは載せないようにしています。

ただ、始めた頃の日常写真(SNSに載せていた)と今の日常写真(SNSには載せない)もちょっと違っていて。昔は日常写真をちょっとでも作品っぽくしたかった。日常写真でありながら、他人に見せる意識がありました。今は、ただの記録として撮っている娘の日常の写真って感じです。写真を撮りに出かけるときとかも、昔は「こういう写真を撮りに行こう」がなかったけど、今はある程度絵を想像して出かけたりもします。たとえばズームレンズを使うときは距離の取れるところで、とか。でも当時は、ただ娘と過ごす中でぱしゃぱしゃ撮って、編集とかで作品っぽくなればいいなって思ってやってましたね。

フィルムで撮った写真は一枚も消せない。より本当の日常が残っているなと感じるんです

ーフィルムは初期からやってたんですか?

そうですね、写真を始めてから半年後くらいに始めました。

ーその頃は、さっき言ってた「日常を作品っぽく仕上げる」みたいなものの中に、フィルム写真も混ざってた?

そうですね。そのときはGRもフィルムも同じような撮りかたをしてました。

ーそこからなぜ「作品はデジタル」「日常はフィルム」に分かれていったんでしょうか?

私の中では、デジタルの写真は色味の編集とかも含めて、作り上げていくという感覚がある。でもフィルムは、撮ったそのまま。フィルムの写真のほうがなぜか愛着が湧くんですよ。自分の小さい頃の写真がフィルム写真だからというのもあるかもしれないけど。だから日常や、忘れたくない瞬間はフィルムで残したいと思っています。

ー今ってフィルムカメラ何台くらい持ってるんですか?

えっと……ちょっと数えてきていいですか?

ーいや、いいです(笑)。

(笑)。多分、10台くらいかな。買っても違うなと思ったらすぐに手放したりもしているので。

ーフィルムカメラ好きな人っていっぱいカメラ持ってるイメージがあります。

買わずにいられないんですよ(笑)。コンパクトをよく使うんですけど、レンズが変えられないので、写りを変えたかったら本体を変えるしかないので。あとはズームとか、フラッシュとか、日付が入るとか、もう少し小さいのがいいなとか、用途に合わせて使い分けたいんですよね。

ー最終的に1台に集約されるのか、全てのカメラが唯一無二になっていくのか、どっちなんでしょうね?

どのカメラも、また使います。どれも写りが違うので。使わない期間があったとしても、また使いたくなるタイミングが不思議とやってくるので、何台でも手元に置いておきたいです。

ー僕が今まで出会ってきた人とは逆だなと思うんですよ。作品はフィルム、日常はデジタルでっていう人が多い。フィルムは決めの一枚を撮っていて、デジタルは多く残せるから日常をパシャパシャ撮るというような。

私の場合は、デジタルでいっぱい撮ったものは、データとして埋もれていくだけになっちゃいますね。デジタルの写真は「何枚かあるうちの一枚」という感覚で、作った写真って感じがする。同じところで何枚も撮って、そこから一枚を選んでいる過程があったりもするし。

フィルムだと一枚も消せないですね。例えば、現像したら目を瞑っていた……というときも、その写真は「失敗」として消すことはないので、そっちのほうがデジタルと比べてより本当の日常が残っているなと感じるんです。フィルムだと一場面一シャッターだったりするから。

ただ、記録写真に関してはコンパクトでしか撮らないので、フィルムの一眼で作品っぽく撮りたいって思ったら、何枚か撮るかな。

ーなるほど、そういう考えなんですね。今使ってみたいカメラとかってあるんですか?

バケペン(pentax67)ですね。センサーサイズが大きいものだとどんな写真を撮れるんだろうっていう興味があります。デジタルだったら、GFXシリーズとかも使ってみたいです。

ーフィルム一眼で、違うレンズを使ってみたい、とかはないんですか?

今のところはそこに興味がわかないですね。今使ってるフィルム一眼のPENTAX SPFは、レンズ含めて父親が使っていたものなので、本体とレンズ合わせてこれで一つ、って感覚があるんです。

カメラもその日の感情によって使い分ける。自分の感情に素直に動きたいんです。

ーENA.さんって写真集をよく読んでいたり展示に足を運んでいたり、「すごく写真が好き」というイメージがありますが、他の趣味とか、子どものころ好きだったものとかってなにかあったんですか?

本しか読んでないです。ミステリー小説が好きで、そればっかり読んでました。子どもの頃はずっと習い事をしていて、高校生までは自分の時間はなかったので。ほんと私、つまんない人なんで……最近はテレビもほとんど見ないし。

今は本当にずっと、写真のことしか考えてない。なにをするにも写真に結びついちゃう。いい写真を撮るためにはどうしたらいいんだろうって。写真に出会う前はなにを考えていたのか、もう思い出せないですね。今はそれ以外の時間も作ろうと、本を読んだり、美術展に行ったり、映画を見たりしたいなと思っています。でもそれも全部、たくさんインプットして、自分の層を重ねて、写真に還元できたらいいなって思っているので、結局写真のことしか考えていないんですよね。

ただ、映画とか見ても、絵の方には興味があまりいかなくて、ストーリーに気持ちがいっちゃうんですよ。写真も、ただ絵として認識しているというよりは、自分の感情で撮りたい写真が結構変わったりします。

昨年、ちょっとしんどいことがあったんですけど、それを境に少し写真にも変化が起きて。今までは、嬉しい、楽しい、きれいとか、ポジティブなときにしか写真を残さなかった。負の感情にいるときに写真を撮りたいって思ってなかったんですけど。でもその一件があって以来、静かな写真を見たりするのも好きになったりして。そんなふうに、自分の感情に素直に動きたいんです。カメラもその日の感情によって使い分けたりします。見る人からしたら、統一感ないなって思われるのかなってちょっと気にはしてるんですけど。

感情のほうにフォーカスしていますね。本当に心がダメになっていたら、写真を撮れないだろうって思ったんです。辛いことが続いたりしても、「あ、撮りたいな」って思う瞬間があったなら、「自分は何かを見て心が動くから、まだ大丈夫だ」とか思うんです。シャッターを切れたってことは、大丈夫だって。

ー最後に、今後撮りたい被写体とかありますか?

大人が撮りたいです!娘を撮ることが私にとっての写真活動の根本にあるのは変わらないけど、それとは別に、誰かとお互いに意見を交わしながら作品を作るっていうことをしてみたいですね。

あとは、風景にも興味が出てきました。広くて静かな風景。いつもは身近な日常の風景を撮ってるけど、まだ行ったことのない知らない土地に写真を撮りに行ってみたいです。

(おわり)